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最高裁判所第一小法廷 昭和33年(あ)2698号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人加藤定蔵の上告趣意第一点および同第二点(イ)について。

所論は原判決の憲法二一条、二二条、三五条違反および大審院の判例違反を主張する。しかし、原判決は第一審判決の認定を維持し、被告人は不定多数の人の視聴に達せしめ得る状態において事実を摘示したものであり、その摘示が質問に対する答としてなされたものであるかどうかというようなことは、犯罪の成否に影響がないとしているのである。そして、このような事実認定の下においては、被告人は刑法二三〇条一項にいう公然事実を摘示したものということができるのであり、かく解釈したからといってなんら所論憲法各法条の保障する自由を侵害したことにはならないのはもちろん(昭和三一年(あ)第三三五九号、同三三年四月一〇日当小法廷判決・集一二巻五号八三〇頁以下参照)、また、所論判例と相反する判断をしたことにもならない。従って、論旨はいずれも採用し難い。

同第二点(ロ)および同第三点について。

所論は原判決の東京高等裁判所および大阪高等裁判所の各判例違反をいうけれども、本件記録およびすべての証拠によっても、成田何五郎が本件火災の放火犯人であると確認することはできないから、被告人についてはその陳述する事実につき真実であることの証明がなされなかったものというべく、被告人は本件につき刑責を免れることができないのであって、これと同趣旨に出でた原判断は相当であり(昭和三一年(あ)第九三八号、各三二年四月四日当小法廷決定を参照)、何ら所論東京高等裁判所の判例と相反するものではなく、所論大阪高等裁判所の判例は右と抵触する限度において改めらるべきものであるから、論旨は採用できない。

同第四点について。

所論は単なる訴訟法違反、事実誤認の主張を出でないものであって、刑訴四〇五条の上告理由にあたらないし、所論に鑑み記録を調べても、本件につき、同四一一条一号、三号を適用すべき事由ありとは認められない。

よって、同四〇八条、四一〇条二項に則り、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七)

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